バイパス建設現場を訪ねて、公共事業に関わったあの日を回想してみた。
退職から明けた、とある日の朝9時半。
妻が娘を連れてヒーリングの講習会に行くというので、僕はクルマで会場まで送った。
引っ越し業者が見積に来る日も決まらないから、部屋の片づけにもあまり身が入らない。
僕の今日の予定も入っていない。
そうだ。僕が仕事で関わった場所に行ってみようか、と思い付き、海を見下ろす杉が茂る丘までクルマを1時間ほど走らせた。
ここが、つい3月末にバイパス工事で一部開通した場所。
僕は8年ほど前、この場所にバイパスを建設するための土地を買収するために、地権者さん方と交渉するため毎週のように出向いた場所だった。
いまの写真は、バイパスを通すために大きく盛り土をして、林の向こうに道路を通すために橋が架かっているが、以前は市営住宅が何棟も連なっていて、家庭菜園の小さな畑もある穏やかな平地だった。
一人暮らしのお婆ちゃん相手に、道路ができるからと立ち退きの話を持ち掛ける。
もちろん、憲法で財産権は保障されないといけないから、移転先の別の住宅を役場に照会かけたり、移転料はいくらです、と金額を提示したりして交渉を何度も進めていき、やっとの思いで合意、契約、そして立ち退きをする。
長く住み続けてきたお婆ちゃんの心境に思いを馳せながら、今度は別の地権者さんとアポを取って交渉に出向く。
これの繰り返しだった。
そうして住宅を解体し、更地になったところに、こうやって道路を何年もかけて造成する。
この繰り返しが公共事業なのだ。
このバイパスの向こうは、こんなに立派な杉林。
戦後まもない頃に、日本全国にスギやヒノキなどの植林を国策で奨励していた時期があったらしく、あれから60、70年と経っているので、けっこうな大径木に育っている。
この場所は、北海道の指導林家さんの展示林に指定されていて、林業施業のお手本ともいえる。
手入れがされていないと、樹木が密になりすぎると太い木が育たない。
更に先は、建設途中のバイパス予定地。
道路を造るにはたくさんの木を伐採しないといけないけど、工事直前まで立木を残しておかないと雨によって土砂が流出して災害を引き起こすから、そこは最大限に配慮しないといけない。
木を伐るにも、道路や橋を造るにも、沢の水を通す管を付け替えるにも、多くの時間と労力が必要な公共事業。
その一端に僕が関わっていたことを記憶に留めるための、小さなドライブだった。
僕が訪ねた函館市南茅部の大船遺跡は、最近世界文化遺産に認定された「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一つです。
道路を建設するには、計画の段階から事前に遺跡などの埋蔵文化財調査、というのが必要となっています。