林業の6次産業化とは(その2)~北国のパイオニアツリー、白樺プロジェクト~
次の日。僕たちは家具職人の工房を訪ねた。
僕が泊まったゲストハウスから車で15分ほど。
丘の町をうたう山あいの集落の一角に、家具の工房があった。
オーナーは、関西で建築設計事務所に勤めた後、北海道のこの地に移住して家具製造会社で修業したあと、独立して工房を開いている。
入って驚いたのが、機械の数と整然と並んだ工具、そして家具を作るために自作した「型」。
(手芸なら「型紙」、土木建築なら「型枠」というのだろうか)
仕入れた木材を切る、削る、穴をあける、磨く、塗る。
いろいろな役目の機械が並ぶ。
講座が始まると、オーナーが取り組んでいるという「白樺プロジェクト」の説明がされる。
上記HPトップページより
白樺プロジェクトとは
白樺は、北国北海道の持続可能な豊かな森の恵み。
そんな地域の資源を再評価し、森林と生活者を結び、産業として、文化として根付くことを目指すプロジェクトです。
白樺は、北海道のイメージを彷彿させる代表的な樹種であり、北方圏のさまざまな民族で古くから使われてきた歴史があります。用材のみならず、樹皮、樹液、葉、根など一本丸ごと利用可能な樹木です。森の中でも身近な木で、50年ほどで成長し、荒地にも育つパイオニアツリーです。
しかし現状では、ほとんどがパルプ材として消費されています。そんな白樺を、多種多様な樹種の中からの単なる一つの選択肢と考えるのではなく、身近で豊富で持続可能で、多様な恵みを与えてくれる資源として再評価し、産業として文化として地域の生活に根付くことを目指します。
そして、森林や林業の現場から、森林の恵みをお客様に伝える現場までを結び付けることにより、地域による多様なシラカバ関連の6次産業化を目指します。
北海道の森林は、明治開拓期以降切り開かれ、先の大戦の戦中戦後には過度の伐採により本来の姿を大きく変えてしまいました。現在地球規模で森林資源の減少や、エネルギー・環境等の諸問題を抱える中、適正で持続可能な育林、伐採、利用方法を模索すると同時に、一方で、自分たちの暮らしの豊かさを開拓するプロジェクトになることを願います。
パイオニアツリーとは、その地域で一番最初に、そしてメインに自生する「先駆者」の木のこと。
戦後の高度経済成長期に、日本全国で用材等の需要のためにスギやヒノキなどの人工林を植樹することが国策として奨励され、そのために多くの天然林が伐採された時期があった。
人工林(主に針葉樹)は50年ほどで用材にできるほどに生長するけど、天然林(主に広葉樹)の生長スパンは100年以上にもなる。
生長スパンの長い広葉樹を皆伐したために植生が異常を来たし、気候変動やエネルギー資源の枯渇などの問題を抱えてしまったことの反省から、北海道に古くから自生する白樺を、用材以外にも様々な利用価値を見いだし、持続可能な産業として北国に住む私たちの豊かな暮らしに寄与していこう、というのがこのプロジェクト。
メンバーには、家具職人以外にハウスメーカーや林産試験場、デザイナーなどが名を連ねている。
そしてここにも、「6次産業化」がキーワードとなって記されている。
そもそも「6次産業」とは
6次産業(ろくじさんぎょう)とは、農業や水産業などの第一次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態を表す。農業経済学者の今村奈良臣が提唱した造語。また、このような経営の多角化を6次産業化と呼ぶ。ちなみに、6番目という意味ではない(後述)。
農業・漁業は第一次産業に分類され、農畜産物、水産物の生産を行うものとされている。だが、6次産業は、農畜産物、水産物の生産だけでなく、食品加工(第二次産業)、流通、販売(第三次産業)にも農業従事者が総合的に関わることによって、加工賃や流通マージンなど第二次・第三次産業の事業者が得ていた[売上・利益]を、農業者自身が得ることによって農業経営体の所得を向上させようというものである。
6次産業という名称は、農業本来の第一次産業だけでなく、他の第二次・第三次産業を取り込むことから、第一次産業の1と第二次産業の2、第三次産業の3を足し算すると「6」になることをもじった造語であったが、現在は、第一次産業である農業だけでは成り立たないことから、6次産業は、「国の政策」として、定着した言葉になっている。
第二次産業・第三次産業が得ていた[売上・利益]に[付加価値]を付けて、農業のブランド化、消費者への直接販売、レストランの経営などを推奨している。
ウィキペディア「6次産業」より
元々は農業経済学者が提唱した言葉であって、1次産業の農家が主体となって、市場に流さずに自分たちで加工製造(2次)・流通販売(3次)の業種と連携を組んで付加価値を高め、1+2+3=6で総合的に農家の経営安定を進めようとする概念。
これを林業でやってみよう、というのがこの研修の狙いだった。
森林や林業の現場(1次産業・川上)
↓
加工・製造の現場(2次産業・中流)
↓
森林の恵みをお客様に伝える現場(3次産業・川下)
「狙い」がわかると、ここに参加した意義もはっきりと見えたのだった。
午後からは家具の展示場へ。
オーナーが製作した家具を展示している展示場には、地場の家具会社のブースが30個以上もある。
どの家具をみても、手作り感、高級感満載で、手仕事の精緻さを実感できるものだった。
当然、お値段以上!の量産家具店とは一線を画した空間だった。
この一角に、「白樺プロジェクト」のブースがあり、実物を見ながら説明を受けた。
先のオーナーが製作した白樺の家具。
このテーブルと椅子には、オーナーがこだわりを持つ2つの特徴がある。
一つは、木の芯部の赤身を活かしていること。
赤身は硬くて加工しづらい上、周りの白身と色が明らかに違うことから、これまで利用価値が少なかったらしい。
しかし、芯材の濃い色を前面に出した一枚ものを使っていることが付加価値を高め、プロジェクトの趣旨にマッチして、自然と融合したぬくもりが暮らしに豊かさを与えることに繋がっている。
つまり贅沢な気分になれる、ということかな。
もう一つは、椅子の背面に白樺の樹皮がついていること。
樹皮がはがれないためには、樹液が根元から上がってこない真冬に伐採をして、早めに製材や乾燥を行い、特殊な加工、塗装を施して自然の白樺材を演出している。
さらに、白樺材を使った皿やカップなどのクラフト、葉っぱを使った草木染めのマフラーやハーブティーも展示されており、「一本まるごと利用可能な」身近な木であることを改めて認識させられる。
わざわざ外材を輸入しなくとも、宝は足元にあるものだ。
木を地産地消することで、暮らしの質はグッと上がるのだろう。
想像しただけで、これまた何とも贅沢な気分になれそう。
6次産業化の意味を考える
この研修では、主催者が自伐型林業(1次産業)を、オーナーが家具職人(2次産業)を、それぞれ個人事業として営んでおり、小規模で事業を展開する同士の連携の大切さを知った。
そして、小規模ゆえの利点もあれば課題もある。
利点は
・多く伐採しないので山を傷めない
・施業範囲が狭いので材や樹皮を傷めないで丁寧な施業ができる
・造材が少量なので産出者や製作者の顔が見える
課題は
・大量生産と比較すると生産性が低い
・必要な材を継続的に産出しにくい
これについては、個人事業ゆえのアイデアで付加価値を高めること、必要な材を融通しやすいように各里山で産出可能な材のカタログ化、などが挙げられる。
そして、小規模ゆえに6次化で期待ができるのは
・利益を出せるような値段を自分でつけることで主導権を握ることができる
・自身の製品の価値をしっかりと確立して発信できる
・理念や想いを汲んでもらえる顧客の発掘
・1本の木から多様な商品を生み出せる
・小規模事業者ゆえの役割を常に念頭におき、パフォーマンスでは終わらせないで継続していく
これらのことを学ぶことができた、よい機会だった。
僕がいま、個人事業として農林業を営む親方のもとで修業しようとした決め手も、こうした理念、想いがマッチしていたから、だったと思い返してみる。
あのときは、6次化という言葉も知らなかったけど。
特に、会社組織ではない小規模の1次産業が主導権を握れる、というのは大いに魅力に感じたのだった。
そのためには、これからも継続して修業をしていく。
ただ、それだけ。